後で考える

本、旅行、資格、お酒について書くと思います

新人平社員ですが「経営戦略全史」を読みました

読んだ本

www.amazon.co.jp

読む動機

就職先で推薦されていた本。真面目に戦略について学ぶというよりは読み物として。

概要

経営戦略の歴史はテイラーの科学的管理手法、メイヨーの人間関係論、フェイヨルの経営・管理プロセスを起源とする。

ドラッカーは当時まだ主流でなかったマネジメントに関する著作を発表し、従業員への権限委譲・分権化の重要性を説いた。 ドラッカーの主張する企業経営の3つの側面は以下の通り。 - 顧客の創造: マーケティングイノベーション - 人間的機関: ヒトを生産的な存在たらしめる - 社会的機関: 公益

アンゾフは「戦略」という軍事用語を企業経営に導入した。3Sモデルやギャップ分析、企業戦略/事業戦略、コア・コンピタンスモデルなど現代でも用いられる分析手法・戦略を生み出した。

チャンドラーは組織と戦略が相互に深く関わっていることを説いたが、「組織は戦略に従う」と言うフレーズが一人歩きしていた。組織先導の変化よりも、戦略先導の変化の方が多数派であることは事実なので仕方のない面もある。

多角化・分権化による組織変化が一段落すると、今度は戦略そのものの変化・決定方法に関する要求が高まった。過去の戦略論が抽象的なものにとどまっていたのに対して、BCGの経験曲線および成長・シェアマトリクス (PPM) は、多角化した事業を分類し、戦略策定することに役立つこととなる。

マーケティング戦略の観点では、Product Life Cycle 戦略が構築された。これは、製品のライフサイクルのどの段階にいるかで、対象となる顧客や収益性など、取るべき打ち手が決まると言うものである。「マーケティングは死んだ」とも評されたが、現実はそう単純ではなく、この戦略だけでうまくいくわけではなかった。

外部環境を重視するポジショニング派が優勢であった中、マッキンゼーによる 7S が発明された。これは、優れた組織における内部構造の分析手法である。しかも、戦略やシステムなどのハード面だけでなく、人材や価値観などのソフト面 (企業文化) をも重要視した物であった。

ゼロックスが体系化したベンチマーキングは、社内や競合、他業界からベストプラクティスを学び、企業のケイパビリティを向上させる手法である。しかし、このような模倣や改善は戦略とは言えない。一方でストークは時間を軸にタイムベース戦略を構築した。これは差別化とコスト削減を両立するという観点から、ポジショニング戦略とケイパビリティ戦略を両立するものといえる。

イノベーションの重要性はシュンペーターの時代から続いている。イノベーションに必要なものは経営戦略ではなく起業戦略となる。スティーブンソンが提唱する「アントレプレナー」は、現在の資源にとらわれず (コアとなる技術やアイデアは必須) 目の前の機会に素早く対応する者であり、これはケイパビリティ派ともポジショニング派とも異なる。起業家は特殊な人間と認識されがちであり、故に戦略論よりは起業家論が注目されやすい。一方、組織に注目したイノベーション理論には野中のSECIモデルに代表されるラーニング論がある。

クリステンセンやアンドルーズが、戦略は無限に存在すると主張したのに対して、ポーターは5 force 分析と戦略3類型に基づいて、戦略はパターン化できると説いた。また、「戦略サファリ」ではケイパビリティおよびポジショニング戦略の組み合わせは企業の置かれている環境次第であると説いた。

その後の財務偏重主義でエンロン事件やリーマンショックなど様々な問題が発生した。その中でキャプランバランススコアカードは、過去 (財務)、内部 (ケイパビリティ)、外部 (ポジショニング)、未来 (戦略) の全ての面から企業を評価するものであった。

不確実、膨張、複雑化、境界不定となる世界の中で注目されている経営テーマは、イノベーション、リーダーシップ、ラーニング、ネット、ソーシャル、グローバル化である。中でも人気があるのはイノベーション、リーダーシップ、ラーニングの3つである。クリステンセンはイノベーションを起こすリーダーの持つ性質を5つ提唱した (関連づける力、質問力、観察力、ネットワーク力、実験力)。

破壊的イノベーション対策に小規模の別働隊が必要となるのと同様に、リバースエンジニアリングでは途上国などに向けたローカルな小部隊が必要となる。そのような観点からも、イノベーション力やリーダーシップの重要性が汲み取れる。

一枚岩の組織は、一度は成功してもその方法論に依存し、いつかは衰退する。重要なものは現場での試行錯誤とそのフィードバックである。それを受けて、2010年代には、試行錯誤型の経営が広まった。

リーン・スタートアップはそのような試行錯誤型戦略の一つである。最小限の機能を持たせた製品を用いて顧客の反応を見て学習と改善を繰り返していく。一方、アダプティブ戦略は予測困難な未来に対して適応する能力を必要とし、実験力が肝となる。また、失敗から学び取る学習能力もなければならない。

最後には、この経営戦略史100年分の叡智として、B3C分析で締めくくられる。土俵、自社、競合の分析を往復しながら進めていき、企業戦略・事業戦略を立てていく。基本的には、PLMや5力分析など過去に発案された手法の組み合わせとも言えるが、上記の試行錯誤の手助けとなるツールである。

感想

自分は経営者でも起業家でもないのでここで学んだことを直接活用する機会は実は当面ないかもしれない。 もちろん、従業員でありつつも経営者の視座を獲得したいとは考えているが、まだ研修を受けているだけの身としてはせいぜい事業戦略程度まで考えることができそうにない。 ただ、柔軟性を持って試行錯誤を繰り返し、失敗から学ぶ姿勢そのものは、ビジネス以外にも通用するものだと思う。 例えば今の自分には趣味らしいものがないので、柔軟に新しいものを受け入れ、試行錯誤しながら自分が充実した人生を過ごせる要素を見つけていきたい。

起業にも興味はあるが、やはりサークルでもなんでもいいのでそのような環境にまず身を置かないと先に進めない気がしている。 とにかくなんでも実験である。試す前に色々考えて結局動けないのが自分の悪い癖だと頭では理解している。 自分を変えるのってこんなに難しいんだなあと思う。まだ20代なんですけど。

細かい話、ブルーオーシャン戦略の例としてAmazonが挙げられているが、Amazonは様々なビジネスに手を出し、その中のわずかな成功例 (AWSなど) で大半の利益を得ているのであってブルーオーシャン戦略に則っているのかはよくわからない。むしろ最後の試行錯誤型に近いようにも感じるが、この本の執筆時期が10年近く前なので、当時と今とではまた色々違うのかもしれない。